2012-08-10

「思いやりの文化」を医療に活かす〜株式会社メトラン 撮影日記〜

従来の人工呼吸器とは全く違う発想で,
超未熟児はじめ多くのいのちを助けてきた
株式会社メトラン
Medtecイノベーション大賞第4回「ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞等
数々の賞を受賞してきた。




「開発に最も重要なことは、
その分野の人達と同じ言葉で話すこと。」
と、ベトナム出身のトランゴックフック社長。
そして言われた通りのことをやるのではなく、
それをものづくりの現場に立ち還って、
工業の文脈の中で翻訳し直し、要望に合うものを作りだす。



日本に留学生として来日し、帰国して帰農するつもりが、
ベトナム戦争勃発。
帰国が叶わなくなった。
その後日本の医療機器メーカーに就職。
そこで人工呼吸器に出会う。
人工呼吸器についての文献はあっても実際にモノがなかった時代。
フック社長は独学で世界中の文献を読みあさる。
そして、従来の人工呼吸器の問題に突き当たった。

人の呼吸は、肺を大きく膨らませて肺の中の気圧を下げるため
酸素が肺に自然とはいってくるという仕組みになっている。
ところが、人工呼吸器は圧力をかけて肺に酸素を送り込むため、
患者に大きな負荷がかかっていた。

そこで、フック社長は、リニアモーターの技術を使って
1分間に900回という高頻度の振動を与え続ける
ことにより、空気中の酸素を均一にし、呼吸しなくても
酸素が肺に入ってくるという仕組みを開発した。



これまで超未熟児は肺が未発達なため、
一度に必要な酸素を取り込めず、人工呼吸器によって
酸素濃度の高い空気を送り込まざるを得なかった。
それは「失明」か「死」かという苦渋の選択を伴うものだった。

生命を維持するだけではなく、
「障害を残さず、生かせてあげたい」ことを願うフック社長。
使命感が革新的な人工呼吸器Humming Birdを世に出した。




日本のものづくりに足りないのは、Open  Innovationだという。
「自分が相手にオープンでなければ、相手も心を開いてくれない。」

大切なのは,個々の技術ではなく、
ジャンルを超えた様々な情報をアッセンブリし、
1つのシステムとして開発すること。


言葉の問題は国境だけではなく,ジャンルの間にも存在する。
翻訳の問題は、結局はその人の人生の豊かさや許容範囲の広さに
大きく左右される。

人の豊かさや許容範囲とは、持って生まれたものというより
たゆみない努力と飽くなき追求により手に入るものだ。
それは、究極の「思いやり」とも言えるだろう。
フック社長の笑顔には、様々なご苦労を越えられた美しさを感じる。



メトランは、たったの42人で、日本の集中治療室の約9割の
人工呼吸器を供給している。
工場を覗いては社員や研修生一人一人に声をかけられるフック社長が印象的だった。
(取材:榎田智子)



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